タバコ、彼が眠った後
育児のために仕事を休み、家を買おうとするもやはり希望通りの家にはなかなか出会えず、子どものイベントが1つ1つ消化され、少し間の空いた時間ができてきた。
ぽっ、と、妊娠発覚時にやめたタバコが出てきた。カートン買いしていたタバコは丸ごとヘビースモーカーの父にあげたはずだったのだが、1つだけ、フリーザーパックに入っていたものが出てきた。大人のタイムカプセルだ。どう言うつもりでこれをこうしておいたのか思い出せないよ、ねえ10ヶ月前の私。
これまたなぜか残してあったライターを持ってベランダに出た。箱から引き抜いた1本だけ吸ってみる。それは何ともまぁ不味くて。苦くて重苦しく、とても吸えたもんじゃなかった。
わたし、もうタバコも吸えないんだなぁ。と、しみじみ思った。お酒も禁酒したら本当に弱くなってしまったし、息抜きといえば料理をするくらい。
なんだか更に腑抜けた存在になってしまったように感じた。
育児は順調。わたしたちの子どもは思いのほかすくすくと育ち、最近はもっぱら自分の両手への興味とお喋りが得意になってきた。夜もたくさん眠るし、毎朝起きて「おはよう、」と声をかけた時の笑顔がとてもかわいい。
そんな彼を育てるための家を購入し、夏の間に引っ越して、秋には保育園探しを始めるスケジュールだった。週に1日だけ働いて、それ以外は夜、展覧会用の絵を描く。そんなスケジュールだったはずなんだ。
それが何一つ成就されていないこの現状に辟易してきた。
これからどうなるんだろう。何でもいいから、引っ越ししたい。気分を変えたい。
わたしは今、さよならするはずだったこの部屋の天井を見上げ、空を睨んでいる。